【イベントレポート】Web3 Future 2023『自民党web3PT座長・平将明氏 基調講演』 2023.6.16

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【イベントレポート】Web3 Future 2023『自民党web3PT座長・平将明氏 基調講演』 2023.6.16

はじめに

2023年6月16日に東京ミッドタウン八重洲にて『Web3Future 2023』を開催いたしました。当日は産官学のWeb3業界に精通された30名をゲストスピーカーにお招きし、Web3事業進出をご検討の企業担当者など350名近くの方々にご参加いただきました。今回は自民党Web3プロジェクトチーム座長・平将明氏の基調講演の内容を要約してイベントレポートとしてお届けいたします。

G7の議論を牽引した我が国の『web3・AI ホワイトペーパー』

本日のカンファレンス『Web3Future 2023』の基調講演ということで、20分間お話をさせていただきたいと思います。 

まず自己紹介として、私は自由民主党でWeb3やAIなど先端技術・デジタル活用の領域で政策を作っています。

Web3分野では「web3PT」の座長として、ホワイトペーパーを出させていただきました。その後税制の要望や中間提言を経て、今年『ホワイトペーパー2023』を出させて頂きました。これらは全て私のホームページでご覧いただけるのでご活用ください。

また、皆さんも御存知の通り昨年秋からChatGPTのような大規模言語モデルのAIに注目が集まっています。AIについても今年初めに私がプロジェクトチームを立ち上げ、座長としてホワイトペーパーをまとめました。これも私のウェブサイトでぜひご覧いただければと思います。

このホワイトペーパーをもとに今年5月に日本で開催されたG7では、議長国として議論を牽引しました。

いま世界各国を見渡すと、ヨーロッパはAI規制を強化する姿勢です。また、アメリカでは第三者委員会や外部監査を入れてユースケースに応じて検討すべきとの議論が行われています。

これに対して日本は「リスクはきちんと共有しながら規制下で活用すべき」との基本方針を共有しながら、これらホワイトペーパー作成などを通じて前もって議論を重ねてきたことが結実し、G7のアジェンダにも影響を与えられた、との手ごたえを感じています。

また、私は自民党の成長戦略である「新しい資本主義」を作る実行本部の事務局長を担当しています。この実行本部の本部長は自民党の岸田総裁ですので、我々が出した提言を政府の方向性に反映させたいと思います。

今回のフォーラムでは自民党の神田潤一さん、小林史明さんなど、自民党の政策通のメンバーも登壇します。ぜひ他のセッションも注目をしてください。 

Web3とAI、レギュレーションとイノベーションの共進を目指す

今年初頭に河野太郎デジタル大臣とデジタル担当の閣僚がG7に向けた準備として、ダボス会議やヨーロッパ諸国、カナダ、アメリカを巡ってきました。

その後日本に帰ってきた河野大臣から驚くべきことに「Web3は終わった、これからはAIだ」なんてことを言われました(笑)

海外ではWeb3なんて誰も言わず皆AIを語っていた、ダボス会議でもWeb3のセッションは無くAIに差し替えられていた、というのがこの発言の背景にあったようです。

しかし私は「Web3からAIへ、というと何も知らない人だと思われるから言わない方がいいですよ」とアドバイスしました。というのも、Web3とAIは交互に作用しながら進化し合う、相関関係の強い技術だからです。

例えば、生成AIはメタバースの進化にものすごい力を発揮すると言われています。そして、このメタバースで価値をやり取りするためにWeb3が使われるわけです。このように、それぞれの技術はデジタル社会の発展に相乗効果をもたらすことができます。

8年前に登場した映画『HER・世界でひとつの彼女』は男性がAIに恋をするというストーリーでした。私も勧められて観てみたところ、この映画の世界観はまさにChatGPT4で実現が可能だと思いました。

やはりこれからの時代はWeb3もAIも実際に使ってみることが大事です。使ってみて将来的にどんなことが起きるか、悪用するならどう利用するか、を想像することが今政治家に求められていることです。

一般的に「わからない」「危ない」があると規制したがる風潮がありますが、それは一番良くないと思います。レギュレーションとイノベーション、政治家がどちらを優先するべきかを適切に判断するには想像力が大事です。テクノロジーがもたらす未来のイメージをどれだけ膨らませられるか。それが我々に必要なことだと思います。

先日、メタバース空間のアバターがAIか人間かを区別するためにIDを付与する取り組み事例を見てきました。今後はさらにNFTを活用する事例も登場するそうです。このようにブロックチェーン技術もAIも普及していくでしょう。

政府があえて「Web3」という言葉を使う、そこに込められた真意

去年政府の骨太方針を検討する際に政府から「Web3」という言葉を入れたくない、と抵抗されたこともありました。以前デジタル庁は「Trusted Web」という言葉を使っており、また世界では「Web3」という言葉を政府が使っているところはない、とも言われました。

しかし「成長戦略」を作っていく際に我々は「人々がワクワクすること」が重要だと考えたのです。ワクワクできなければ成長戦略とは言えない。だから敢えて「Web3」という言葉を使いました。


では、その「Web3」の定義は?と言うと諸説ありますが、我々の立場としては

・ブロックチェーンベースの暗号資産である「FT(ファンジブルトークン)」と、その普及の上に登場した「NFT(ノンファンジブルトークン)」

・Web3上で機能する組織形態であり、株式会社やストックオプションに次ぐインセンティブ革命に繋がる「DAO」

・最も規制の影響を受け、従来の金融のレギュレーションをはめることで実装できる「DeFi(分散型金融)」

これらの技術を含んだエコシステムの総称を「Web3」と呼びたいと思います。

クリプトウィンターのいま、日本がアツい。Web3業界を日本が牽引できる4つのアドバンテージ

いま世界は規制強化によって暗号資産の市況が悪化し、あちらこちらで「クリプトウインター」などと言われています。そのため5月のG7でもその流れを受けて規制一辺倒の話題に傾きそうでした。

しかし、今回のG7はそうはならなかった。諸外国からも「議長国である日本が前向きな議論を先導したからだ」といった声を頂いています。このようにG7をリードできた日本に今4つのアドバンテージがあると思っています。


1つ目は「安全な取引所、交換所」。

昨年末米国ではFTX事件がありましたが、我々専門家チームは「かつて昭和に起きた顧客資産を分別管理しなかった金融事件と同じ」「ブロックチェーンの本質に決定的な欠陥があったわけではない」この事件をこのように総括しています。

我々はこれまでマウントゴックス事件、コインチェック流出事件を経験してきました。その教訓を活かし金融庁がしっかり対処してきたことで、「FTX Japan」の資産は適切に信託され、迅速に事業改善命令を下すことができました。

この事件によって日本のこれまでの「厳しすぎる規制」は「安全な規制」と見方が逆転したことは大きなアドバンテージです。 

2つ目は「ステーブルコイン」。

今年6月に資金決済法が改正され、これから国内でステーブルコインが登場します。このステーブルコインはメガバンクのグループや誰もが知る有名な会社、ベンチャー企業からも今後登場します。

これにより、本当の意味で「ステーブル(安定的)」なコインが登場します。このステーブルコインによって日本で地に足付けたWeb3のエコシステムが生まれるでしょう。

3つ目は、手前味噌になりますがイノベーションに理解のある「ローメーカー(立法者)」の存在です。

これまで「世界の方が先進的」「日本の政治家は無能」と見られがちでしたが、我々プロジェクトチームには世界で通用する、理解のある立法者が揃っています。それが与党の中心にいることが日本の利点です。

4つ目は「地方創生」です。

私はこれまで世界でデジタルアートNFTが大金で取引されてきたことに違和感を持っていました。

むしろNFTというのは日本の伝統文化、食、観光、漫画、アニメ、ポップカルチャーなどアナログ体験や人と人との繋がり、リアルな資産などの価値を最大化するのに使えるものだと思っています。Web3が地方創生のユースケースにつながる国は、日本以外に聞いたことがありません。

例えば、ニセコのスキー場で通常のリフト開始時刻の15分前にリフトに乗れるチケットをNFT化して5000円で販売したとします。これが転売されやがて9万円で取引されるようになった。だとしても、誰も足跡をつけてないパウダースノーを楽しめる権利には需要がありますので、この9万円という価格は適正価格だと思います。

また従来このようなチケットを販売しても転売者だけが儲かっていました。しかしNFTで販売するとスマートコントラクトによって発行者にも還元できます。

さらに言うと日本では30年間デフレだったためプライシング(価格の根付け)に弱みがありました。しかしNFTによってあらゆる日本の優れた価値を世界価格に引き直し、価値を最大化できるようになります。

また、日本の国宝などを日本の大企業が4k、8k、12kなど極めて精緻にスキャンしています。これによって人間国宝が描いた水墨画作品の繊細なタッチまでが再現されています。このような作品をNFTによって権利処理したものが世界中の人の目に止まり、すでに500万円ぐらいで取引されています。

漫画というポップカルチャーも日本の強みです。昔アニメは「セル画」で作られ、コレクターがその価値を認めてきました。今は漫画製作もすべてデジタル化されたことで「デジタル原画」をNFT化する取り組みが出てきています。これらも日本のポテンシャルを最大化できるものです。

そしてもう1つ、私が関心を持っているのが「ウォレットとマイナンバーカードの一体化」。この新しいマイナンバーカードにはICチップでキーが格納されているため、これで暗号資産支払いやNFT受け取りができます。

しかもこの技術では、ユーザーがブロックチェーンを意識せずにマイナンバーカードとウォレットを結びつけるインターフェイスやエクスペリエンスを実現させようとしています。いまマイナンバーは公共受取口座などの問題でバタバタしていますが、ウォレットに置き換わればこれらの問題も解消されそうです。

すでに税制改正など、Web3環境整備の外堀が埋まりつつある

現在、税制の分野においても様々な改革が進められています。いくつか例を挙げていきます。

まず、企業が自社発行した暗号資産を事業年度末の時価評価対象から除外します。これによってこれまで『渡辺創太問題』と呼ばれていたWeb3企業や人材がシンガポールに流出するような事態は解決できそうです。

次に、自社発行でなく短期売買目的ではないガバナンストークンの時価評価も外そうと取り組んでいます。

また、これまで暗号資産業者の監査を監査法人が敬遠している、と言われてきましたが、これについては金融庁がランドテーブルを用意し、会計事務所や様々な企業とこれまでの誤解を解くことで課題が解決されそうです。

暗号資産の新規上場までに時間がかかる、という問題についても事業者の皆さんのご協力をいただき早急に解決に向かっています。

そして今年春、投資事業有限責任組合(LPS)がセキュリティトークンに投資可能になりました。さらに暗号資産やトークンを加えるかどうかについても論点を整理して来年の法改正に向けて明確にしていきます。
 
最後に「DAO」の法制化について。今国会中の議員立法が間に合いませんでしたが、DAOの特性を最大限活かせるように既存の法律と調整しています。しっかりと精査した上で次の国会で法制化を目指していきます。

規制の本質を捉え、日本のポテンシャルを最大化させる

先日スタートアップの皆さんとお話をしたところ「日本のクリプトウィンターは暖冬だ」と言われました。

今アメリカでは感情的な規制に走り、理性的ではないように見受けられます。我々はブロックチェーンの本質的な機能に着目していますので、一番先に春を迎えるのが日本となるよう日本のポテンシャルを最大化していきます。

そのためにしっかり皆さんからもご意見いただきながら政策を前に進めて参りたいと思います。

今回のカンファレンス成功されることをご祈念申し上げて、冒頭の基調講演とさせていただきます。ありがとうございました。

まとめ

今回のイベントレポートは 『自民党Web3プロジェクトチーム座長・平将明氏 基調講演』の内容をWeb3の新規事業を検討される方々に向けてダイジェストしてお届けいたしました。
Web3とAI、日本のアドバンテージ、我が国の規制の意図とビジョンなど、今後事業を組み立てる上でのヒントを多く得られるご講演だったかと思います。

今回の『Web3 Future 2023』では平将明氏の基調講演に始まり、合計7つのパネルセッションが行われました。今後各パネルセッションに関するダイジェストレポートを順次公開予定ですので、掲載をぜひお待ちください!

【Web3Future 2023・コンテンツ一覧】

パネル1『日本再興に向けた国家戦略としてのWeb3』
パネル2『Web3が生み出す新しい地方自治と社会・経済 powered by POTLUCK FES』
パネル3『トークナイゼーションがもたらす金融と生活の融合』
パネル4『ゲーム大国日本はGameFiの中心地になれるか?』
パネル5『金融事業者はWeb3の波をどう読むか』
パネル6『大企業が考えるWeb3のポテンシャルと取り組む意義』
パネル7『Web3起業家たちの考える業界のイマとミライ』