【イベントダイジェスト】『イノベーションのジレンマに囚われない成長戦略』Web3 Future 2023 パネル④ - ゲーム大国日本はGameFiの中心地になれるか?

株式会社Ginco

【イベントダイジェスト】『イノベーションのジレンマに囚われない成長戦略』Web3 Future 2023 パネル④ -  ゲーム大国日本はGameFiの中心地になれるか?

はじめに

Web3の大衆普及はブロックチェーンゲームの浸透が呼び水になると以前から言われてきた。ブームにいつ火が着いてもいいように国内ゲーム業界では開発に勤しんでいる。一方海外ではコンテンツ不足が産業発展のボトルネックとなっており、IP創出を得意とする日本からWeb3ゲームのキラーコンテンツが登場することに期待も集まっている。今後日本が世界のゲーム産業の中心地となるためにどのような課題があり、どう乗り越える必要があるか。Ginco取締役副社長の房安 陽平氏をモデレータに、株式会社カイカエクスチェンジ取締役の池田 英樹氏、Digital Entertainment Asset Pte.Ltd.CEOの山田 耕三氏、株式会社HashPort代表取締役CEOの吉田 世博氏の4人が語り合った。

※本記事は、弊社Gincoが2023年6月16日に東京八重洲ミッドタウンで開催した「Web3Future 2023」の講演内容を基に再構成したものです。

目次

1.Web3領域でゲーム普及に取り組む意義とは何か
2.マスアダプションに向けWeb3ゲーム開発で欠かせない視点とは
3.Web3ゲーム開発と取引所との連携が状況を打破する
4.コンテンツ大国日本が取るべき成長戦略

今回のセッションでは国内Web3ゲームのキープレイヤーとなる三名の登壇者が冒頭の議論の足並みを揃えるべく、モデレータを務める房安氏が登壇者それぞれの現在の取り組み、なぜWeb3領域でゲームの普及に取り組んでいるのか、について問いかけた。

1.Web3領域でゲーム普及に取り組む意義とは何か

最初に切り出したのはHashPortでCEOを務める吉田氏だ。吉田氏は2018年に「HashPort」を設立し、 国内大企業にブロックチェーン関連のコンサルティングを展開するリーディングカンパニーだ。すでに「HashPalette」にて国内38万人以上という大規模のWeb3ゲームユーザーを抱えるプラットフォームを構築しているという。その吉田氏が、なぜWeb3業界でゲームがキーポイントと言われるかについてこのように説明した。

「ゲームというのは広い領域にまたがる産業であり、娯楽・エンタメ・スポーツ・SNS・クリエイティブプラットフォームなど多くの業界と繋がっている。そのため一度ゲームに火が付けばたちまち他の業界に広がる可能性を秘めている。現在ゲーム業界全体としてWeb3を活用した大きな成功事例を作るべく開発に注力している。(吉田氏)」

続いて、山田氏は2018年にシンガポールで「Digital Entertainment Asset(DEA)」社を創業した人物だ。DEAはすでにWeb3ゲームで東南アジア中心に268万人のユーザーを持つWeb3ゲームプラットフォーム「Play Minning」を展開しているとのことだ。その山田氏は次のような見方を提示した。

「Web3ゲームというのは、ブロックチェーン技術を活用することでゲーム自体をさらに進化させられるものであると同時に、ゲームを手段にしてこれまでの経済をさらに活性化できるもの、でもある。つまりWeb3とゲームが相互に作用しこれまでの世界を大きく変える可能性を持つことからWeb3普及のカギを握っているのはゲームだと捉えている。DEAではこの観点を踏まえてWeb3ゲームを『社会課題の解決のためのツール』と位置づけその実現を目指している。(山田氏)」

それに対して、Web3ゲーム業界は世界的にコンテンツ不足に陥っていることを切り出したのが暗号資産取引所「Zaif」で CTO を務めている池田氏だ。Zaif は「Zaif INO」という審査制のゲームNFT販売を支援する国内初のプラットフォームも展開している立場から、次のようにWeb3でのゲームの重要性を説明する。

「NFTやWeb3の拡大には魅力あるコンテンツが不可欠だ。コンテンツとして特にWeb3の魅力を体感してもらいやすいのがゲームだと考えている。日本はコンテンツ・ゲーム産業で世界的に大きなプレゼンスを発揮しており、これらのコンテンツがWeb3と融合することができれば大きな潮流が生まれるだろう。そこで、如何にしてコンテンツをマネタイズするか、また如何にシームレスにゲーム体験とWeb3的な金融体験を接続するか、というイシューを解決しうるのが暗号資産取引所だ。Web3ゲームの普及にはゲーム会社と取引所の連携が不可欠だろう。(池田氏)」

2.マスアダプションに向けWeb3ゲーム開発で欠かせない視点とは


房安氏は次の話題への導入として、実際のWeb3ゲームの普及状況がどれくらいかを聴衆に尋ねた。結果、想定以上にWeb3ゲームを体験済みであることが確認できたが、それでもまだ多いとは言えない状況を踏まえて「もともとゲームに関心がない人にどうアプローチすればよいか」と登壇者に問いかけた。

山田氏は、「ゲーム=時間の無駄」「ゲームより現実と向き合うべき」と考える層が一定数いることに共感しつつも、そのような捉え方がWeb3ゲームを遊ぶことによって180度変わるかもしれない理由を説明した。

「Web3ゲームは従来のゲームとは異なり『ゲーム=意味があるもの』に変えるポテンシャルを持つものだ。従来はデジタル空間でのみ完結していたゲームだが、Web3ゲームでは現実世界での体験価値を創造したり、ゲーム内で広告を展開して宣伝費を稼いだりすることができるようになった。これにより、従来は閉じた環境の中でゲームに費やされてきた情熱やエネルギーが有効活用できるようになりつつある。(山田氏)」

それに対して吉田氏は多くの「Web3ゲーム(GameFi)」に触れてきた見地から、それらを一括りにするのではなく、次の2つの分類をもってゲーム開発することを提案する。

ゲームの中でもエンタメとしての魅力を突き詰めるものを『ブロックチェーンゲーム』、一方で人々の行動変容を重視するものを『X to Earn』。前者と後者はユーザーが求めるものの優先順位が異なる。どちらに寄せるかを考えずにWeb3ゲームを開発・展開するとどのユーザーの心にも刺さらないプロダクトになる恐れがある。ゲームがユーザーの目的に沿ったものかどうか、ゲーム設計で陥りがちなポイントを教示した。

一方、山田氏はこの吉田氏の示した区分に賛同した上で、DEAのビジョンにからめてWeb3ゲームについて別の見方を提示する。DEAとしてはすべてのゲームをエンタメの枠を超えて現実世界に収益機会をもたらそう、という理念のもとで『Play Mining』を展開しているとのことだ。そしてこの Play Mining では次の観点でゲームの魅力を追求しているそうだ。

「例えばゲーム画面内のものを楽しむ『インゲーム』の側面、そしてそのゲームに参画する外部の人間とのやりとりを楽しむ『メタゲーム』という側面がある。『メタゲーム』の例としてはスカラシップ(ゲームをプレイするための資金を奨学金のように融通する制度)があり、資金提供者とプレイヤーとの間でお互いに収益を得る目的で協力し合うことで雇用の創出に繋がっている。これにより『X to Earn』ゲームがエンタメでありながらも発展途上国の貧困対策になっているように、さらに現実世界をゲーミフィケーションしてビジネスや社会課題解決に結び付くものになるよう目指していく。(山田氏)」

3.Web3ゲーム開発と取引所との連携が状況を打破する

次に房安氏はゲーム業界だけでは解決できないWeb3ゲームならではの課題とは何か、池田氏はこう答える。

「Web3ゲームの開発というのはゲームがプロジェクト単位で資金調達するという側面を持つものである。そのため通貨を円に交換する際の規制や税制など法的解釈を含め、明らかに従来のゲーム会社にとって専門外の領域が多く含まれている。トークンや NFT の販売は適切に設計し運営しなければ会社の信用問題にも繋がるもの。ひいてはキャッシュフローなど経営面にも影響を与えるため、これらをサポートできるのは取引所である。(池田氏)」

また取引所が提供できるサービスの中で「ウォレット」の重要性を池田氏は語る。最近このウォレットとマイナンバーカードの連携についてゲーム会社とも新たな社会実験を進めており、今後デジタルマネーを社会システムに組み込む必要性が必ず生じることから、ゲーム会社と取引所との連携には多くのメリットがあるとのことだった。

ここで房安氏は「ゲーム会社が暗号資産交換業者のライセンスを取得する。これは現実的か」という問いを投げかけた。

吉田氏は、仮想通貨を扱うためのノウハウ以外にも、安全に管理できるシステムの運用など専門性が伴うため現実的ではないと語る。ゲーム会社が金融ライセンスを自社で取得して運用できた過去の成功事例は国内でソニーだけだそうだ。

山田氏もこの意見に同意しつつ、各業界の得意分野を活かすことが重要だと語る。Web3で活用される技術はオープンソースという特徴もあり機動力とコンポーザビリティの発揮がキーポイントとなる業界。そのため、システム同士で自由度の高い連携を保ちながら UX を向上させることが理想的だ、と付け加えた。

4.コンテンツ大国日本が取るべき成長戦略

最後に房安氏は、IP(知的財産)を生み出す力に長けている日本が今後取るべき戦略について登壇者それぞれに聞いた。

吉田氏は日本は IP の数だけでなく、UX を最適にスタマイズできるクリエイターの数、世界的に見た人件費の安さなど含め良い条件が揃っているため、世界の Web3 を牽引する国になることを確信しているという。しかし一方でこのような警鐘も鳴らした。

「もしも今後日本で、ゲームはこうあるべき、こうでなければいけない、などと過去の成功体験に固執した場合にはそのチャンスを逃すこともあり得るだろう。なぜならブロックチェーンゲームや X to Earn の「正解」は既存ゲームの延長線上にはないと考えるからだ。これまで映画、テレビ、YouTube、Tiktokなど主流メディアが変遷してきたがそれぞれの成功フォーマットは同じではなかった。 日本がイノベーションのジレンマに囚われず次の新しいフォーマットの発明に突き進むことが一番重要な成長戦略だ。(吉田氏)」
 
続いて山田氏も吉田氏の意見に呼応し、Web3ゲームでの新しい成功フォーマットを見つけるのは必ずしも大手企業とは限らない、とも語る。その理由はこうだ。

「かつて主流だったコンソールゲーム(家庭用ゲーム機器)の市場シェアは、近年ネットワークゲームの台頭でちょうど半分に割れている。しかしこの間市場規模は倍以上成長し今やゲーム市場はグローバルで22兆円規模に達している。なぜ伸びているのか。それは新しいフォーマットの登場で若年層だけでなく女性や高齢者などで新規ユーザーが増加したからだ。そして昨今のWeb3ゲームの登場によりまだゲームに触れていない世界の 50 億人にアプローチするフェーズに入ろうとしている今、同じ成功フォーマットが通用しないなら誰がそのフォーマットを見つけても驚きではない。(山田氏)」

最後に、池田氏は世界的なコンテンツの需要に応えるには、国内皆で協力してコンテンツを世に送り出す仕組みを整えることが重要だという。日本の成長戦略に向けた環境整備を次のように語った。

「新規ユーザーが増えれば増えるほど、ゲームをより安心して楽しんでもらえる UX が求められる。これは取引所がゲーム会社と共に設計に深く関わり構築した先に解決できるものであり、我々はそうしなければならないという使命感を持っている。これにより日本からグローバルで楽しめるゲームが生み出され日本の勝ち筋を作れるものと信じている。(池田氏)」

まとめ

今回は『ゲーム大国日本はGameFiの中心地になれるか?』というテーマのもとでセッションを展開した。

国内でGameFiやNFTの先駆者としての知見から分かりやすくWeb3参入意義を示し続けた吉田氏、ゲームを一貫して「仕事の場、自己表現の場、社会解決のツール、世界を救うための手段」と位置付け普及の道筋を語った山田氏、ゲーム会社の孤軍奮闘ではなく各々の強みを生かし合う連携によって日本のコンテンツが羽ばたく素地作りを訴えた池田氏。

ゲームが日本をコンテンツ大国として復活させるための建設的な議論に加えて、ゲームに対する新たな価値観を示してくれたセッションとなった。

【Web3Future 2023・コンテンツ一覧】

基調講演『自民党web3PT座長・平将明氏』
パネル1『日本再興に向けた国家戦略としてのWeb3』
パネル2『Web3が生み出す新しい地方自治と社会・経済 powered by POTLUCK FES』
パネル3『トークナイゼーションがもたらす金融と生活の融合』
パネル4『ゲーム大国日本はGameFiの中心地になれるか?』(当記事)
パネル5『金融事業者はWeb3の波をどう読むか』
パネル6『大企業が考えるWeb3のポテンシャルと取り組む意義』
パネル7『Web3起業家たちの考える業界のイマとミライ』