【イベントダイジェスト】『セキュリティトークン時代到来に備えよ』Web3 Future 2023 パネル③ - トークナイゼーションがもたらす金融と生活の融合
株式会社Ginco
はじめに
2020年5月に改正金融商品取引法が施行されて以降、普及に向けた取り組みが着々と進むデジタル証券。ブロックチェーンを活用した証券のトークン化によって今後10年で4兆円規模の市場が広がるとのことだが、従来の金融商品とは異なる課題も存在する。デジタル証券が本格普及するために今何が必要か。ステーブルコインの役割とは何か。日本経済新聞の関口 慶太氏をモデレータに、三菱UFJ信託銀行・Progmatの齊藤 達哉氏、大阪デジタルエクスチェンジの朏 仁雄氏、TMI法律事務所弁護士・日本セキュリティトークン協会理事の成本 治男氏、Securitize Japanの小林 英至氏の5名が語り合った。
※本記事は、弊社Gincoが2023年6月16日に東京八重洲ミッドタウンで開催した「Web3Future 2023」の講演内容を基に再構成したものです。
目次
1.デジタル証券市場の国内最新事情
2.これだけ違う国内と海外の事情
3.世界で共通する「発行市場」販売のボトルネック
4.流通市場活性化のカギとは?
5.投資価値だけではない!デジタル資産が変える未来
1.デジタル証券市場の国内最新事情
本セッションのモデレーターを務める関口氏は日経新聞でフィンテックエディターを務める同紙きってのWeb3通だ。関口氏によると、セッションのテーマにあるデジタル証券(セキュリティトークン)は「裏付けがある」「配当を受けられる」「ブロックチェーンが使われている」といった共通項を持つという。
この市場が今どのような発展段階にあるのか。国内外の第一線を知る4名のパネリストに聞いた。
成本氏は国内のデジタル証券普及にむけた法整備について語った。成本氏によると、日本では当局による厳格な規制によって投資家が適切に保護され安心して参入するための素地が作られてきたという。その影響もあり国内のデジタル証券市場は裏付けがしっかりした不動産の健全な取引を中心に普及しようとしている、と語った。
続いて朏氏も、SBI証券と一緒に取り扱っているデジタル証券商品で扱いが多いのは不動産だという。一方で、暗号資産XRPを付与して1億円募集したSBI証券発行デジタル社債が完売した例に触れ、デジタル証券の販売方法に新たな可能性を紹介した。
そして、その社債でユニークな事例を扱っているのがSecuritize Japanだ。小林氏は、昨年STO(セキュリティトークンオファリング)を実施した丸井グループの社債発行事例を取り上げた。マーケティングやカスタマーエンゲージメントで有効活用でき発行企業、投資家ともに好評を得た、と現在広がりつつあるユースケースを示した。
とはいえ、デジタル証券には圧倒的に不動産が多く社債がやっと増えつつある段階だ。その背景を齊藤氏は次のように説明した。
「不動産デジタル証券はトークン化による小口化メリットだけでなく、「受益証券発行信託」という新しいスキームで不動産を証券化したことによるメリットもあり好評いただいている。具体的には、分離課税20%や特定口座が使えることで、従来のJ-REITやクラウドファンディングにはない商品性を訴求できていることが不動産の事例が多い理由だ。「受益証券発行信託」スキームを用いずにデジタル証券化する場合は、権利移転時の私法上の整理や税制面で課題が残っており、スケールするうえでは課題が多い。他方で「受益証券発行信託」を用いた商品開発プロセスは、信託法制/税制に精通している三菱UFJ信託銀行でも1年以上の検討期間を要している。不動産以外のアセットに拡げるためには、トークン化という技術的側面よりも、金融商品開発面の難易度が高く、誰でもできるというわけではない。(齊藤氏)」
同様の理由から航空機や船舶などを扱った他のデジタル化証券の普及にも時間がかかっているとのことだ。他にも、映画製作のための資金調達をデジタル証券化する試みがあるが、これらは今のところ「匿名組合」を使った出資に該当し個人投資家を対象とするにはさらにハードルが高くなる、とのことだった。この齊藤氏の説明に関口氏も「エンタメ系の資金調達にデジタル証券ではなくNFTやDAOが使われるのはこのためだ。」と合点した。
2.これだけ違う国内と海外のデジタル証券事情
次に国内と海外のデジタル証券市場にはどんな違いがあるのか、小林氏はこう説明した。
「先ずは最も大きな違いは、デジタル証券というと日本ではパーミッション型のブロックチェーンから普及しているが、海外では基本パブリックチェーン上で展開されている。(小林氏)」
また、齊藤氏も同意して付け加える。
「ステーブルコインとデジタル証券を共通のプラットフォームに乗せて価値や権利を移動、流通させることには大きなシナジーが期待されている。ステーブルコインによって国境関係なく海外とやり取りできるようになるメリットもあるため、Progmatでパーミッション型とパブリック型のブロックチェーンを接続する予定だ。(齊藤氏)」
また小林氏は、すでに実用ステージに入りつつある海外のデジタル証券における4つの最新トレンドを取り上げた。
「グローバルな大手アセットマネージャーによる小口化商品」「エンゲージメントを高められる“ファイナンス × マーケティング”を可能にするSTOソリューション」「プライベート資本市場(非上場・未上場企業・スタートアップ企業)の資金調達」「オルタナティブ(伝統的資産以外の新しい投資対象、不動産はこの中に含められる)金融商品」。これらが現在拡大中とのことだ。
これに対し、国内のデジタル証券の今を齊藤氏は以下のように語る。
「不動産の中でも地方のホテルや旅館などファンエンゲージメントを高められるものが一番の原動力になっており、Progmatを活用した案件は610億円近くが運用されている(2023年6月時点。記事公開時点では800億円超)。また、これまで富裕層の節税目的で購入されていた飛行機や船舶のような償却資産もトークン化され、利回り目的の商品として購入できるようになっていく。(齊藤氏)」
さらに「今後Progmatは国内の法律に沿って様々な外貨建てステーブルコインを取り扱えるようにする。海外のデジタル証券を日本で購入したり、国内のデジタル証券を海外から購入したりすることが可能になっていく。」と齊藤氏はいう。
朏氏も「このステーブルコインに端を発する価値移転の革命は絶対に避けて通れない。いつか国境も、様々な種類のブロックチェーンの垣根も越え、規制も乗り越えていく。我々も日本からスイス、ドイツ、シンガポールの取引所と繋がるビジョンを持ち世界が取引できる世界を描いている。」と語った。
3.世界で共通する「発行市場」販売のボトルネック
関口氏はここで新規募集を扱う「発行市場」と個人間で売買する「流通市場」を切り分け、まずは「発行市場」の今後のビジョンについて問いかける。
成本氏は「不動産の中でもエンターテインメント施設、商業施設系が面白い。これらに特典を付与し顧客のエンゲージメントを高めたものが拡大するだろう。」と述べた。しかし、発行市場には課題もあるという。
課題の一つは「販売チャネル」の問題だ。例えば、従来の社債では「自己募集」と呼ばれる自社プラットフォーム内で発行する方法があるが、証券会社にお願いすればもっと大規模に金額を集めることができる。ならばデジタル証券は証券会社頼みなのか、と言われるとそうとも限らない。不動産のデジタル証券販売には固有の難しさがあり、証券会社の販売ノウハウだけでは限界があるため不動産業者と協力が必要だ、と成本氏は語った。
関口氏の「高い利回りを提供していても販売が難しい、その理由は何か」という問いかけに対して今度は朏氏が解説する。
「金融商品として何かを販売する際には証券会社には商品の厳格な一定の説明責任がありコストが生じる。この説明コストが販売時のハードルとして大きい。こうした説明が要求されるのは有価証券のキャッシュフローを生み出す源泉が原資産である不動産だからであり、どのようにキャッシュフローが生み出されるのかを正しく投資家に理解してもらう必要性がある。(朏氏)」
この意見に対し成本氏も「トークン化された金融商品は、従来のREITのような証券化商品よりも、より元の資産性が強く反映される傾向にある。例えば不動産ならば不動産そのものを売買する感覚に近い印象だ。この際にその不動産がどういったキャッシュフローを生み出すか、そこにどんなリスクがあるかを従来の証券化商品と同じロジックで説明しづらい、という側面がある。」と補足した。
小林氏も、これは日本だけでなく海外でも抱えている課題だ、と共感しつつ、別の海外事例を引き合いにデジタル証券が資本市場に及ぼす影響について説明した。
小林氏によると、約2年前にSecuritizeがセキュリティトークンを使ったIPOを実施したエクソダスという会社は、株式公開にあたり自己募集で100億円近くの資金調達に成功したそうだ。この事例の特徴の一つは、セキュリティトークンを投資家に直接販売することにより、資金調達に発生していた引き受け・販売手数料等が0で済んだ点にある。デジタル証券・セキュリティトークンの流れは止めることはできないと考えられ、これを前提とした資本市場・事業創出でイニシアチブを取ることで成長の機会が生まれ、また出来なければビジネスそのものがディスラプトされるリスクがあることを示唆している。
4.流通市場活性化のカギとは?
話題は「流通市場」に切り替わる。発行市場に加え流通市場も展開しているSecuritize、国内で流通市場の確立を目指す大阪デジタルエクスチェンジ。関口氏は実際に今それらがどのような発展段階にあるのかを尋ねた。
小林氏は「Securitizeは米国で『Securitize Markets』という流通市場を開設している。そもそもこのような銘柄の取引量は少ないものの、全体のバリューチェーンの中におけるプレゼンスと意義は大きい」、朏氏は「大阪デジタルエクスチェンジは株式のPTSとして事業を始動しており、日々400億円くらいの取引がある。まだ東証の1%程度の取引量だが、この水準を増やしていきながら並行してセキュリティトークンの取引市場を開設することを当面の目標としている。流通市場の設立により、投資家にとって換金できる安心感と、証券会社にとって販売後の証券の買い取り義務から解放されることにより、発行市場も一層活発になるものと考えている。加えてステーブルコインが登場すると、既存の株式市場と異なり、関係者の決済の実務負担を大きく減らすことが可能になる。」と回答した。
そして関口氏はこのデジタル証券の流動性を高めるため「ステーブルコインに期待したい」と齊藤氏に説明を委ねた。齊藤氏は「まさにステーブルコインはそのためのキラーパーツであり、早期の社会実装を期待してほしい。」と応じ、さらに次のようにステーブルコインの特徴を語った。
「ステーブルコインは様々な用途に利用可能だが、メインの用途は貿易決済や企業間決済だ。現状、銀行が更新系APIを提供するにはコストが高すぎるため、プログマビリティ(条件により決済が自動実行されるなどの機能)が殆どない。ステーブルコインは柔軟なプログラマビリティを備え、金融事業者以外に金融サービスをシームレスに提供できる。ステーブルコインがあれば国境をまたいだ送金が簡単になりコスト面など多くのメリットをもたらす。(齊藤氏)」
5.投資価値だけではない!デジタル資産が変える未来
これまで投資目線で展開されてきたセッションだったが、最後に関口氏はデジタル証券が「生活」を変える側面について尋ねた。
成本氏は最近のNFTを使った会員権や著作権、DAOの仕組みを生かした地域創生などの分野でのデジタル証券の有効性を説明する。何より配当を出すことが一番分かりやすいインセンティブになるからだ。そして次のように続けた。
「例えば、マンションの所有権をデジタル証券化して賃借人の方にその一部を保有してもらう。すると賃借人はテナントであるのと同時にオーナーの1人でもあることになるので、そのデジタル証券の価値を高めるためにマンションの環境美化を心がけたり、空室率を下げるよう自ら行動したりすることが期待できる。これを地方創生に当てはめると、例えば、ある地域・エリアの底地の所有権をデジタル証券化して住民や関係人口を構成する個人に発行する。これによりどうすれば地価を高められるか、治安を良くできるか、などのインセンティブがはたらき、住民参加型の町づくりができるのではないか。(成本氏)」
そして、小林氏は「BtoC企業の株式がデジタル証券になった場合、企業はリアルタイムで株主を把握できるようになる。例えば、デジタル証券の株主はその企業の店舗に行くと、その場ですぐ株主優待を受けられるようになるし、企業もそれを前提にさまざまな施策をリアルタイムで打てる。このような世界をSecuritizeは実現したい。」と語った。
まとめ
今回は『トークナイゼーションがもたらす金融と生活の融合』というテーマのもとでセッションを展開した。
海外市場で培ったノウハウをもとに日本国内に先進事例をもたらそうとする小林氏、デジタル証券のマッチングサイトとして市場を活気づけ、あらゆる証券会社でデジタル証券の取り扱いが可能となる二次流通市場を目指す朏氏、デジタル証券の更なる拡張性や社会に与える可能性を示す成本氏、今日本市場の普及のための期待が集まるステーブルコイン早期導入に取り組む齊藤氏。
まもなく金融に端を発した大きな変革が訪れることを予見させる議論となった。
【Web3Future 2023・コンテンツ一覧】
基調講演『自民党web3PT座長・平将明氏』
パネル1『日本再興に向けた国家戦略としてのWeb3』
パネル2『Web3が生み出す新しい地方自治と社会・経済 powered by POTLUCK FES』
パネル3『トークナイゼーションがもたらす金融と生活の融合』(当記事)
パネル4『ゲーム大国日本はGameFiの中心地になれるか?』
パネル5『金融事業者はWeb3の波をどう読むか』
パネル6『大企業が考えるWeb3のポテンシャルと取り組む意義』
パネル7『Web3起業家たちの考える業界のイマとミライ』