【イベントダイジェスト】『産官学の連携でクリプトの春を呼び込む』Web3 Future 2023 パネル① - 日本再興に向けた国家戦略としてのWeb3
株式会社Ginco
はじめに
FTX事件を機に規制強化に沸き立つ米国の傍らで、今年6月に資金決済法が施行された日本の暗号資産・Web3規制が世界で注目を集めている。これまで日本は過去のハッキング事件によりこの分野で世界に遅れを取っていると揶揄されてきたこともあったが、その間着々と「何ができて、何ができないか」という明確なルールを策定した。その成果が結実しつつある今、日本がWeb3を起点に再興するために何が必要か。金融庁チーフ・フィンテック・オフィサーの牛田 遼介氏、ジョージタウン大学教授の松尾 真一郎氏、衆議院議員の神田 潤一氏、Ginco代表取締役の森川 夢佑斗氏、の4人が語り合った。
※本記事は、弊社Gincoが2023年6月16日に東京八重洲ミッドタウンで開催した「Web3Future 2023」の講演内容を基に再構成したものです。
目次
1.ユースケース創出とビジネス環境整備
2.産官学連携による新しい秩序作り
3.Web3人材の育成や確保をどう克服するか?
4.AIとブロックチェーンが担う役割とは?
1.ユースケース創出とビジネス環境整備
冒頭、2015年に金融庁でフィンテック部門を立ち上げ、デジタル技術推進に約8年間携わった神田氏は「新たな技術を普及させるために重要なことは何か」という問いかけに、「どうすれば世の中が良くなるか、どうやって社会課題が解決するか、という具体的なユースケースを描くことが大事」と行政の立場から説明した。
これについて森川氏は事業者目線の知見から「トークンはあくまで入れ物であって、そこにどんな価値を乗せるかが重要」と語る。そして「日本ではゲームやアニメのようなIPが豊富にあるためトークンに確かなユースケースを吹き込めば、市況が冷え込もうが必ず芽吹く」と日本のユースケース増加は時間の問題だ、とポテンシャルの高さを強調した。
そこで司会の牛田氏は「ウォレットの暗号鍵管理などのUX面で課題があるのでは」とウォレット事業者として造詣の深い森川氏に疑問を投げかける。それに対し森川氏は「ウォレットによってユーザーが十分に参入しきれていない側面はあるが、全員が全員自己主権型ウォレットで管理しなくてもよく、ベストプラクティスをゼロベースで模索すべき。ユーザーに代わって業者が管理することでウォレットの利用体験を望ましいものに近づけるという選択肢もある」「UX面の問題は技術によって十分に解消可能であり、時間が解決する問題にも思える」と見通した。
2.産官学連携による新しい秩序作り
それに対して長年米国でのイノベーションの第一線にいた松尾氏は別の視点を持ち込む。「シリコンバレーでは門戸を広げて新しい技術に関わりたい人間を多く受け入れることで、業界をより良く理解する人を増やしてきた。日本でもこのような環境整備がイノベーションを起こすためには重要」と説明する。
そして、日本の今の環境整備は「事業者寄り」の環境整備をしている印象があるため、起業家とVCと規制当局に加え、もっとエンジニアを積極的に巻き込むべきだ、と付け加えた。今は『クリプトウィンター』と言われるが、時間が経てばまた春が来るというわけではない。日本は多くのエンジニアを巻き込み研究開発費を惜しみなく注ぎながら新しい秩序を作ろう。そのように「春」を迎えるべき、と熱弁しこの議論を結んだ。
さらに神田氏はポリシーメーカーの立場でこの米国と日本の対比を「グレーゾーンこそビジネスチャンスととらえるアメリカ人と、グレーゾーンには踏み込まずリスクを取らない日本人」という構図で説明。この特性を踏まえると、日本では行政が「ここまではOK」「ここからはダメ」という境界線を早くはっきりさせることが最善だ、と語った。
3.Web3人材の育成や確保をどう克服するか?
業界の悩みである開発人材の確保はどうするべきか。神田氏はデジタル人材育成について行政の現在の取り組みとして、様々な事例を列挙した。具体的には、国内人材の育成には「リスキリング」と開発者コミュニティを育むための「イベント開催」。海外人材の誘致には「スタートアップビザ」発行と「スタートアップキャンパス」の設置などがこれにあたる。
それに対して森川氏は事業者としての実情を交えながら以下のように議論をまとめた。
「そもそも日本にはスタートアップやエンジニアの母数がまだ少ない。Web3は、P2P通信や暗号技術、クラウドなどのテクノロジーと、規制、税制、会計など様々な知識技能を求められる特異な事業領域なので、さらにその少ない母数から採用しなくてはならない。ブロックチェーン領域で豊富な経験を積んだ人材を探すなら、日本だけでなく海外にも目を向けるべき。よって神田さんの外国人の就業支援などは有難い施策だ。」
4.AIとブロックチェーンが担う役割とは?
昨今AIとブロックチェーンの関係性が話題になっていることについて、牛田氏は問いかけた。
松尾氏は、AIの発展によってかなり精巧に証拠を偽造できるようになり、デジタルデータが裁判の証拠にできなくなってしまうことなどを懸念した。松尾氏によると、この懸念を解消しうるのがブロックチェーン技術だという。
「ブロックチェーン技術の本質はタイムスタンプ。タイムスタンプとは『その電子データが何時何分に登録された』という情報を記録するためのもので、公証人役場で発行される確定日付のような役割を担う。データが作成された日時や作成者などの履歴を確定させていくことで、情報に一定の裏付けを与えることが可能になる。これがあればAIによって偽造されたデータにも一定の証拠能力をもたせることができる。AI時代だからこそブロックチェーンが重要性を増していく。」
また神田氏はAI時代におけるブロックチェーンの重要性を、「AIが著作権と密接に関係する」という別の角度から語る。例えば、生成AIは著作権を曖昧にする一方で、著作権違反か否かをチェックすることも可能。この新しい技術の利便性とリスクをバランス良く調和させるためには、現段階ではまだ事例の洗い出しが必要だ。
そこで、日本人は技術を使い倒してきめ細かいサービスを作ることを得意とする国民性である。この日本人の特長とAIによって、必然的に多くの事例が集まり、今後たくさんのユースケースを創出できる。AIを積極的に使い味方に付けようと聴衆に投げかけた。
まとめ
今回は『日本再興に向けた国家戦略としてのWeb3』というテーマのもと産官学という異なる三者でセッションを展開した。
日本はコミュニティを作って一緒に練り上げることが得意、と日本人の特性を生かそうとする神田氏。4月末のETH TOKYOで日本人の技術レベルの高さ、ポテンシャルの大きさを伝えそれを引き上げる松尾氏。クリプトウィンターは何より人の手による熱い思いで雪解けを起こそう、と業界を活気づける森川氏。
異なるそれぞれの立場から日本の夜明けに向けて有効なアプローチが語られ議論は閉幕した。
【Web3Future 2023・コンテンツ一覧】
基調講演『自民党web3PT座長・平将明氏』
パネル1『日本再興に向けた国家戦略としてのWeb3』(当記事)
パネル2『Web3が生み出す新しい地方自治と社会・経済 powered by POTLUCK FES』
パネル3『トークナイゼーションがもたらす金融と生活の融合』
パネル4『ゲーム大国日本はGameFiの中心地になれるか?』
パネル5『金融事業者はWeb3の波をどう読むか』
パネル6『大企業が考えるWeb3のポテンシャルと取り組む意義』
パネル7『Web3起業家たちの考える業界のイマとミライ』