【イベントレポート】Web3 Development MTG#4「これからの暗号資産取引所ビジネスの話をしよう」
株式会社Ginco

概要
株式会社Gincoでは、Web3の普及と発展に向けて、「Web3 Development MTG」というイベントを開催しています。年末の大変お忙しい時期にお集まり頂きました第四回は2022年の総決算ということで日本を代表する取引所の方々、株式会社カイカエクスチェンジ 取締役の池田英樹氏、コインチェック株式会社 常務執行役員の天羽健介氏、GMOコイン株式会社 取締役の小谷紘右氏をお迎えし、弊社株式会社Ginco代表取締役社長の森川夢佑斗をモデレーターにパネルディスカッションを行いました。
このイベントレポートではその概要をコンパクトにまとめてお届けしたいと思います。
自己紹介
森川氏: では、まず池田さん自己紹介お願いします。
池田氏: カイカエクスチェンジで取締役をやっています池田英樹と申します。弊社に入社したのは一年ちょっと前で、日本の取引所で初めて働くので毎日が目新しい中、一生懸命に働いているのですが、中々業績は厳しいなという感じです(笑)。あとはWeb3頑張ります!今日はよろしくお願いします。
天羽氏: コインチェックの天羽です。よろしくお願い致します。コインチェックでは新規事業の責任者をしていまして、NFTとかメタバースとかIEOとかWeb3系の新規事業の担当をしています。本日はよろしくお願いします。
小谷氏: GMOコインの小谷と申します。よろしくお願いします。GMOコインには五年ほど在籍していまして、新規事業よりは内部統制とかガバナンスの方を担当していました。結構堅い話になっちゃうかもしれませんが、よろしくお願いします。
森川氏: Gincoの森川です。本日もお集まりいただき誠にありがとうございます。大学在学中にGincoを創業いたしまして、今年で五年になります。
日本で言うと暗号資産・通貨のビジネスの中心は取引所だと思いますが、今回は取引所の方々にお越しいただいたので、そういった点をお話聞ければと思いますのでよろしくお願いします。
今年の振り返り
森川氏: 今年の初頭はNFTブームからWeb3が急激に盛り上がり初めて、「いよいよ春がきたか!」と思っていたら、ロシアのウクライナ侵攻、TerraとUSTの問題等々で相場が崩れて、挙句の果てにFTXの件で意気消沈しています。みなさんは今年はどうでしたでしょうか?
池田氏: IT関係でいうと、USTの問題の方がITテック系としては痛かったです。ステーブルコインは幾つか種類がありますが、アルゴリズム型のステーブルコインの問題点が実証実験されてしまった形になってしまいました。そこの議論が止まってしまっている。FTXの件からもステーブルコインは立場が少し厳しくなってきているな、というのが今年の感想です。
天羽氏: 私はコインチェックに入ったのは5年前で、正直にいうと毎年激動なので、もう感覚が麻痺して慣れてきてしまっていますね(笑)外部環境でいうとNFT、メタバースが大きく広がってきて、ブームの移ろいの早さを実感しています。そういった所を精査して、トレンドを読んでできることを実直にやっていくことが重要かな、というのが今年の振り返りです。
小谷氏: 私もこの業界入って五年ほどですが、同じく麻痺してしまっていると思います(笑)事件事故がおき過ぎて、不感症のようになっていてしまっているというのが正直なところです。ただ、ある種これは創業して五年程たって経験が貯まってきたということでもあるのかなと思っています。自分たちに出来ることをやっていくことがやはり重要ですね。
森川氏: そんな中でも特に印象的だった出来事はありますか?
天羽氏: 外部環境でいうと、自民党の中にWeb3PTができたのが印象的でした。暗号資産のイメージが巷では悪かった中で、政府与党に専門部署が出来たのは非常に大きいと思います。
小谷氏: 同じくイメージの点で言うと、世間でのイメージも以前の怪しい・危ない・不安といったマイナスのものからかなり世間に受け入れてもらったという印象があります。また、docomoさんのように大手の企業がWeb3に参入してきて明るい兆しが見えてきたと思います。
森川氏: なるほど、ありがとうございます。確かに今まで不祥事やハッキングなど負の部分に焦点が行きがちだったブロックチェーン業界に大手が参入してきたことで明るい部分にも光が当たってきていると思います。
技術的分野の2022年
森川氏: 技術的な観点では2022年はどういった年だったでしょうか
池田氏: エンジニア目線で話すと、エンジニアはのびのびとWeb3を活用できるようになってきていると思います。特定の分野に特化したプロトコルが増えたことや、L2が発展したことでユースケースが多様化しています。ただ、セキュリティだけはエンジニアの視野から抜け落ちてしまっているなという印象があります。
セキュリティの分野は非常に重要ですし、それこそ取引所にハッキングがあれば信頼性が大きく損なわれます。そのような中で注力しなければならない分野なのですが、ユースケースの方が先に目が行きがちでまだまだ発展途上だと思います。
天羽氏: 私は新年1/3日ぐらいにSlackの全体チャットで社員に年頭初心表明を行ったのですが、その時には社員にメタバースだったりNFT関連の取り組みについて話してそれに取り組んでいた一年でした。海外プロジェクトだったり「NOT A HOTEL」など様々なステークホルダーを巻き込みながら自社のエコシステムを徐々に形成してきた一年でしたMeta社の昨年の発表を受けて社内のいろんな意見を無視して突き進んでいます。
小谷氏: 我々は面白みのない取引所なので(笑)、取引銘柄を増やすなど愚直でコツコツな感じの取り組みに注目してきたので、コインチェックさんを見ていると眩しいです(笑)
森川氏: GMOコインさんはIEOしていたと思うのですがどうでしたか?
小谷氏: 結構賛否両論でしたし、有り体にいえば炎上しましたね(笑)実体経済との接点を増やすことを重視したのですが、反省点も多いです。ただ、IEOについては今後も試行錯誤しながら今後も継続して行きたいと思っていて、審査をより慎重にサスティナブルなものにしたいです。
池田氏: コインチェックさんやGMOさんが面白いこと・堅実なことをしているので、Zaifではコミュニティと仲良くしていきたいなと考えていて、ステークホルダーとの交流を増やしました。これから先、Web3をやりたいというコミュニティや事業者が増えてくると思います。こうしたプレイヤーの受け皿として取引所が意見を受け止める機会が今後は増えると思います。ですので、こういった層の期待に応えられるように努力していきたいですね。
森川氏: 天羽さんはこうした「Web3に参入したい、IEOしたい」という方々とどのように関係を構築していますか?
天羽氏: 取引所で何ができて何ができないのかといった点を整理しながら最終的には巡り巡って自社とご縁があればいいなという考えでやっています。
森川氏: そういった関係構築が重要ですね。ありがとうございました。
取引所ビジネスの課題と今後の展望
森川氏: ここからは取引所ビジネスにおける課題をどのように捉えているのかお教えください。
池田氏: まだまだ規制が強くて、L2や新興プロトコルの発展をうまく採り入れられていない。流行り廃りが早いこの業界で旬のトークンを扱うことができないと旬を逃してしまうと思います。
天羽氏: 今後は既存の暗号資産交換業が持っている法定通貨と暗号通貨を交換する機能の価値が相対的に下がっていくと考えています。エンドユーザーを抱えているような大企業が参入してきた時に一気通貫のサービス体験が実現するので、その時に取引サービス事業者がどのように生き残るかが重要だと思います。
森川氏: そうした未来を見据えた時にエコシステムの構築を重要視しているということですか?
天羽氏: その通りで新しいサービスやサービス間のシナジー、相乗効果をエコシステム全体で形成していく必要があると思います。
小谷氏: GMOでも米国でのステーブルコインプロジェクトなど、グループ会社全体でユースケースを考えるのが重要だと考えています。エコシステムの中にユーザーを取り組んでいくことが必要ですね。
森川氏: 取引所ビジネスの今後の具体的な取組でいうとどんな感じでしょうか。
池田氏: FTX騒動があったことで、ある種の功罪として均衡が崩れたと思います。総務省系の会社や、大手メガバンク、金融機関が参入してくることで社会への実装と民間の適応が急加速するのではと思っていて、そこに乗っかって新しいプロダクトを提供していければ良いと考えています。
天羽氏: 足元のところでは、ビジネスの特色づけ=差別化戦略が重要になってくると考えています。GMOは金融としての発展を重要視しているので、そういった所で他の取引所と差別化していきたいと思っています。
森川氏: ありがとうございます。そういった所でいうと今回FTXがあのような形になってしまいましたが、海外事業者は脅威に思っていますか?
池田氏: 去年は海外の取引所が本当に幅を利かせており、インフルエンサービジネスで雑に稼ぐ取引所にやられていました(笑)ただ、それらの影響力がこういったユースーケース重視のビジネス形態になれば、収まるのではないかと考えています。
小谷氏: 近い業態でいえばFXの世界では海外大手企業がなかなか日本市場に参入できていない現状にあります。暗号資産取引の分野でも一緒で、日本企業がまだまだ地の利を活かせると思っています。他方でNFTなどの周辺サービスの分野では特定の海外事業取引業者がデファクトスタンダートになる可能性が大きくて、注視していく必要があると思います。
Q&Aセッション
Q:SBTについてどう思いますか?
A:DID(=分散型ID)的なものやチケット的なユースケースから与信管理などのデータビジネスに発展していくのではないかと捉えています。(天羽氏)
A:Zaifでも実際にSBTを使ったユースーケースに取り組む予定ではあります。生活に近いユーザーケースを考えたいですね。プロダクト化を目指して取り組んでいきたい。(池田氏)
Q:国内暗号資産上取引所の手数料収入は減っていくのでは?
A:現状でも下落を予想して低いスプレッドで提供していきたいと考えてきました。ところが、暗号資産の領域では手数料の低さが顧客誘引ファクターになりくいことがわかってきました。長期運用(=ガチホ)勢が多かったり、投資初心者が多いことなどが理由と思われます。なので、大きくは下がらないと思います。(小谷氏)
A:中長期的にいえば、手数料はコモディティ化し下がっていくと思います。そこ以外の利便性などの付加価値がより重要になっていくのではないでしょうか。(天羽氏)
A:全体では下がるものだと思っています。そこにこだわらず、顧客体験(=UX)を向上させていくことがユーザーの獲得につながると思っています。なので、来年度はそこをブラッシュアップしていくことが重要だと思っています。(池田氏)
Q:リサーチと開発のバランスをどのように取っていますか?
A:しっかりとした意思決定をしている会社であればあるほど、意思決定の仕方を変えるような意思決定が必要になってきます。目的が何で、スコープが何か、を常に問い続けることが大切だと思います。(天羽氏)
A:大きい企業体になればなるほど、スピード感のある意思決定が難しくなると思います。決裁の規模感に応じた対応方法を考えて、スピーディーに開発するものとじっくり検討するべきものを分ける必要があるかなと考えています(小谷氏)
A:取引所の機能をサービスに寄せて、一緒にサービスを作るスタンスに今後は変革して行こうと思っています。そういった差別化が他社との差別化に重要だと思います。(池田氏)
森川氏: 最後に一言まとめでお願いします!
池田氏: パイを食い合わずにトークンの同時上場とかで取引所全体で業界を盛り上げていきたいですね!
天羽氏: CryptoとNFTをかけ合わせつつ魅力的なユースケースを作っていきたいですね。サービスの開発に力を入れたいです。
小谷氏: グループとして豊富なケイパビリティがあるので多角化戦略で来年度は取り組んでいきたいです。
まとめ
今回のWeb3 Development MTGでは「これからの取引所ビジネスの未来の話をしよう」を主題に2022年のブロックチェーン業界の総決算を行いました。取引所ビジネスの現状と課題、そして2023年の展望を取引所のお三方にお話いただきました。今回のWeb3 Dev MTG4で印象に残ったのは、今後の取引所で重要なのは、他社との差別化戦略という事でした。今回お越しいただいたお三方も、他社を意識して自社にしかないサービス、顧客体験を追求し、エコシステムの構築を目指していきたいとのことでした。その為には、取引所のビジネスだけでは足りず、さらにもう一歩必要だと思います。
また、今年の総決算としては内部環境ではUSTの事件やFTXの破産といった不祥事が多かった一方で、外部環境からはdocomoの6000億円投資や政府のWeb3パーティーなど大企業や政府の参入が相次ぎ、ブロックチェーン業界に光明が差しています。
来年度もブロックチェーン業界を盛り上げていきましょう。また、弊社Gincoでは、ブロックチェーンの活用を検討されている企業様向けにブロックチェーン導入支援・コンサルティングサービス等を行なっております。
もし、セミナー参加者様、本レポートをご覧になった方で興味・ご関心がございましたら、下記の弊社概要欄よりお問い合わせの程をよろしくお願い致します。
登壇者プロフィール(敬称略)
池田英樹 (株式会社カイカエクスチェンジ 取締役)
日本の金融業界におけるリーディングカンパニーでプロジェクトマネジメントに従事し、数多くのプロジェクトを成功を導いてきた。
ブロックチェーンビジネスの分野でもテクノロジー戦略やアーキテクチャに関する幅広い知見を有しており、近年はブロックチェーンや暗号資産交換所に係る様々な事業法人のCTOに就任するなど、国内外に活躍の場を広げている。
天羽健介 (コインチェック株式会社 常務執行役員)
大学卒業後、商社を経て2007年株式会社リクルート入社。複数の新規事業開発を経験後、2018年コインチェック株式会社入社。主に新規事業開発や暗号資産の新規取扱、業界団体などとの渉外を担当する部門を統括。2020年より執行役員として日本の暗号資産交換業者初のNFTマーケットプレイスや日本初のIEOなどの新規事業を創出。2022年6月に常務執行役員に就任。2021年よりコインチェックテクノロジーズ株式会社の代表取締役を兼務。当社におけるWeb3領域の事業責任者としてNFT事業、メタバース事業などをリードする。 日本暗号資産ビジネス協会(JCBA)NFT部会長。 著書に『NFTの教科書』(朝日新聞出版)がある。
小谷紘右 (GMOコイン株式会社 取締役)
東北大学卒業後、保険会社、証券会社等で経営企画、リスク管理部門を経験し、その後、2017年にGMO Wallet株式会社(現、GMOコイン株式会社)に入社。入社時は、GMO Wallet株式会社が創業間もないタイミングであり、社内体制全般の構築などを含めて様々な業務に従事。その後、経営管理部門を一貫して担当し、現在は、経営管理部門に加え、IEO(Initial Exchange Offering)の審査部門を担当するなど、会社運営全般に携わるポジションにおいて業務を行っている。
森川 夢佑斗 (株式会社Ginco 代表取締役)
京都大学在学中にブロックチェーンのR&D事業を開始し2017年12月に株式会社Gincoを創業。2019年に仮想通貨取引所向けのウォレット(Ginco Enterprise Wallet)を発表。現在はC向け/B向けの仮想通貨ウォレットやブロックチェーン開発基盤を提供し、金融/非金融を問わずブロックチェーン技術を軸としたDX支援に取り組む。著書に『ブロックチェーン入門』『ブロックチェーンの描く未来』(KKベストセラーズ)、『未来IT図解 これからのブロックチェーンビジネス』『未来ビジネス図解 これからのNFT』(MdNコーポレーションズ)などがある。