【イベントレポート】Web3 Development MTG#2 「これからのエンタープライズの Web3事業開発の話をしよう」

Ginco

【イベントレポート】Web3 Development MTG#2 「これからのエンタープライズの Web3事業開発の話をしよう」

概要

株式会社Gincoでは、Web3の普及と発展に向けて、「Web3 Development MTG」というイベントを開催しています。前回は「これからのWeb3の話をしよう」をテーマに、Web3の未来と課題について活発なディスカッションを行いました。
第二回の今回は「これからのエンタープライズのWeb3事業開発の話をしよう」をテーマに、SBI R3株式会社よりビジネス推進部 アーキテクトの趙 昇氏、大阪デジタルエクスチェンジ 株式会社 より代表取締役社長の朏 仁雄氏、株式会社Datachainより、執行役員の石川 大紀氏をお招きし、 Web3領域におけるエンタープライズ事業開発の最前線とその展望について、パネルディスカッションとQ&Aにお答えいただきました。
このイベントレポートではその様子をコンパクトにまとめてお届けしていきたいと思います。

Web3をどのような潮流として捉えているのか

森川氏: 本日はお集まりいただき誠にありがとうございます。今回は参入された時期もバラバラなお三方が、今のWeb3ブームについてどのように考えているのかというのとそれが御社にとって追い風なのか、向かい風なのか、といったところから伺えればと思います。まずは、趙さんどうでしょうか?
 
趙氏: Web3というのは人によって定義とか考え方がバラバラで、私自身も最近わからなくなってきています(笑)ブロックチェーンを使ったらWeb3なのか、DAO(分散型自立組織)のようにしたらWeb3なのか、と考えて行くと複雑でわからなくなってきている。
 
なので、敢えて定義せずに考えて行くと、イギリスで蒸気機関が発明されて産業革命が起こったように、Web3も歴史の節目節目で起こってきたイノベーションの1つなのではないかと、考えるようになりました。
 
森川氏: ありがとうございます。そのなかで、Web3というキーワードは自社でどのように扱われているんですか?
 
趙氏: 語弊を恐れずに言えば、マーケティング用語だと思っています。Web3のなかに内包されている個別の技術(ブロックチェーンだったり、DAO、DeFi等)については、様々語れますが、Web3の場合は意味が広くて、マーケティングワードとして考えている側面が大きいです。
 
森川氏: なるほど、使う所は使うけどって感じですね。大阪デジタルエクスチェンジではどのようにWeb3を捉えているのでしょうか。
 
朏氏: 弊社はPTSの運用と証券のデジタル化を目的に設立された会社です。近年、PTS設立目的でもある、デジタル証券(=セキュリティトークン)を扱い始めたのですが、金融業界はご存じの通り、規制が多く、Web3が巷でいわれるような民主的で自由な感じとは違うなと感じています。ただ、規制が増えても技術の進歩は止められないですし、規制したって可能である限り必ずやる人が居ると思うんです。
 
そういった中でとても難しいですが、あくまでレギュレイテッドに実現するのがSBIだと、考えています。まあ、北尾社長(SBIグループ社長)の受け売りですが(笑)
 
石川氏: 朏さんのおっしゃっていた「この潮流は止まらない」というのは、私も2018年の創業当初から感じてました。いつどのように来るかは分からないが、デジタル化の流れは絶対に来ると思っています。
 
Web3といっても、基本的にはWebなのでWeb1、2との差は、「どのようなデータを扱うかの差」だと思っています。Web1から3まで進化してきて、Web3ではデジタルアセットを扱えるようになったのが、大きな違いだと思います。この金融がブロックチェーンに乗って扱えるようになるという事は流れとして変わらないと思っています。
 
グローバルでは技術の進歩が進んでいて、証券の分野は日本も頑張っていると思うのですが、ステーブルコインや国際送金といったジャンルでは日本は後れを取っている。とはいえ、向かうべき先は示されているので、そこで必要なものを作っていくのが重要だと考えてます。
 
森川氏: 冒頭から熱いメッセージをお三方から頂けて大変うれしいです。1人1人が違った視点でWeb3をみていて面白いですね。
 
趙さんもおっしゃっていましたが、Web3ってふわっとした概念ですよね。なので、私からもどのようにWeb3を捉えているのかという事をお話しますと、Web3で特筆すべきと感じるのは、Web3の提唱者であるギャビン・ウッド氏が定義した「管理者が存在せずにデータをやり取り出来ること」だと思っています。

従来のWebではどうしても管理者が存在して、そのデータに価値があったときに色々な問題が生じて、GAFAに代表されるようなプラットフォーマーに情報が偏っていて、バランスが悪くなっているという現状にあって、それがよくGAFAへの反対意見として語られています。
 
それが、良いのか悪いのか、という話は兎も角、従来0か1だったものが、グラデーションで設計できるようになったというのが大きいと思っています。これによって、デジタルアセットが登場して、暗号通貨とかNFTとかSTとかを、相互に関連させて、Webサービスに組み込めるようになったのが、Web3の大きな利点だと思います。

プロジェクト進行における壁や障害になったことは?

森川氏: 次はWeb3のプロジェクトを進行する際に、生じた壁や障害についてお伺いしたいと思います。趙さんはどうでしょうか?
 
趙氏: 最大の壁は現状維持を望まれること。なので、小さく動き続けて対話を続けています。いきなり難しい事から話しても理解されないし、とにかく時間がかかってしまう。Web3の面白さ=非中央集権的な性質というのは確かにキャッチーなキーワードですが、やっぱり理解がされづらいし、原理主義的にこだわって色々やると時間がかかりすぎてしまう。
 
なので、ビジネスのフェーズによって異なりますが、小さいところから導入を始めて行くのが良いと思っています。小さくスタートしてスピーディーにスケールさせていかない限り絵に描いた餅がいつまでも食べられるようにならないと思いますね。
 
森川氏: なるほど、小さく始めるというと、どのような事を心がけてる?
 
趙氏: 最初はブロックチェーンも要らなくて、とりあえず動くフロントエンドだけでも良いと思っている(笑)プロジェクトのフェーズが進むにつれて、ブロックチェーンやDAppsを検討していけばよいと思います。テクノロジーありきではなく、きちんと検証したいものを見定めて最小単位を定義することが重要です。
 
森川氏: ありがとうございます。いきなりブロックチェーンとかから入るのではなくて、何をしたいのか、検証したいのかを検討してから始める事が重要ということですね。朏さんは、プロジェクトの壁というと何かありましたか?
 
朏氏: 検討当初の段階で有価証券を扱うには、パブリックチェーンを利用する事が極めて困難ということが分かりました。有価証券を扱う際にパブリックチェーンを使う事を規制されており、そうすると閉じたブロックチェーンで行う必要があります。
 
朏氏: クリプトの世界では口座の捉え方が緩くて、個人間で簡単に取引や譲渡が行える。それによって、マネーロンダリングに悪用されてしまうという問題があり、一定の規制は必要不可欠です。なので、規制の制約下でイノベーションを如何に取り入れるかを考えて、他の証券会社がプラットフォームを自社で持つ中で私たちはプラットフォームをもたない事を選択しました。
 
証券はあくまでプラットフォームのうえで扱われていて、PTSというのはそれを仲介して流動性を生み出すことを目的とした取引窓口です。プラットフォームが自社にないと、扱われる証券の種類をコントロールできず、自社でプラットフォームを持つことなく既存の証券取引の仕組みをゼロから作ることがいかに難しいか痛感しました。
 
森川氏: なるほど、興味深いですね。石川さんはどうですか?
 
石川氏: 自分たちはスタートアップなので事業会社からすると参考にならないかもですが、まず重要なのは生き残る事と諦めない事が大事ですね(笑)
 
自分たちが創業したころはビットコインバブルで同業もそれなりに居たんですが、今はもう全然いない。国内でインターオペラビリティに取り組んでいる企業は他にいないので、しっかりとインパクトのある事例を作って、タイミングが来るまでしっかりサバイブするのが重要です。
 
森川氏: インパクトのある事例、ユースケースを作るのが大事とのことだけど、インバウンドとアウトバウンドだとどちらを重要視していますか?
 
石川氏: うちはひたすらアウトバウンドを重要視しています。実証実験の事例などを探してきて、ひたすら諦めない気持ちで担当部署と繋がるための営業を行っています。

今後の事業展望と個人的な注目領域は?

森川氏: 暗号資産の冬と言われている現在、注目している領域や今後この冬を乗り越えるための事業展望とかをお伺いしたいと思うのですが、いかがでしょうか。
 
趙氏: R3 Cordaは先ほど朏さんがおっしゃっていたように規制の強い金融領域での要求水準を満たす技術として内製・パッケージしたものが発端です。今後も金融領域のユースケースは増加していくと考えています。ただ、規制領域への対応だけではなくて、クロスチェーン決済やインターオペラビリティにも注目しています。
 
森川氏: クロスチェーンの話が出たので、石川さんはどうでしょうか?
 
石川氏: 僕らは異なるブロックチェーン同士で行うクロスチェーン決済に注力しているのですが、日本はまだまだ世界に遅れている。
 
複数のコンソーシアムチェーンを接続する事が出来れば、SWIFTや全銀ネットのような、全世界の金融機関をつなぐ仕組みをWeb3の世界でリニューアルできるようになると思う。世界ではここに取り組むプレイヤーが出ているので、僕らも日本も頑張って行かなければならないと思います。
 
朏氏: 米国では、証券PTSの顧客がイーサリアムでの決済を求める事がままあるので、そういった事に注目している。クリプトが普及した結果として、価値の移転が柔軟になり、コンソーシアムとパブリックも接続しやすくなればもっと自由な金融サービスが実現できるようになっていくと思います。それはとても面白い未来。

フリートーク

森川氏: ここからは、フリートーク的に話していきたいのですが、趙さんの話にプライベートチェーンで小さく始めよう、あとからパブリックチェーンにできるという事がありましたが、両者の違いはどう捉えていますか?
 
趙氏: 概念的にはパーミッションの有無だと思うけど、金融インフラとして使えるのかどうか、という問題に別途で気を配る必要があると思います。例えば、金融インフラには金融機関やシステムベンダーが使い慣れた”枯れた技術””枯れた言語”がベターだと思います。ただ、そのような利用を想定したパブリックチェーンは多くないので要注意です。
 
森川氏: なるほど。金融の世界は閉じているから、そういう注意が必要なんですね。
 
インターオペラビリティの話がさっきあったけど、追求する中でブロックチェーンの多様化・文化を石川さんはどう捉えている?
 
石川氏: エンタープライズ領域で、ブロックチェーンはどんどん分化していくと思う。企業同士の競合関係もあるし、共通化できない課題がある。本当はワンワールドワンチェーンが良いのかもしれないけど、それは難しい。なので、そういった事実をありのまま前提として捉えて考えることが重要だと思います。
 
朏氏: DatachainとMUTBの事例は、Datachainのステーブルコイン発行・管理基盤のProgmatを用いて、デジタル証券のクロスチェーン決済を実現しようというもの。こういったクロスチェーン決済が可能になれば、パブリックなブロックチェーンとの接続もしやすくなるし、ポストトレードの効率化にも繋がると思います。

Q&A

Q:朏氏に質問です。セカンダリマーケットによる流動性確保によってSTはJREITを超えられるでしょうか?

 
朏氏: REITでは複数の物件がひとつにまとめられているため、アセットマネジメント会社などにプレミアが乗っています。STは単品物件が多くてシンプルでわかりやすいという魅力があって、REITとはコアなコンセプトが異なります。
 
ただ、どちらも流動性が重要という共通点はあると思います。そのため、DeFiのリクイディティプロパイダーの仕組みなどを参考に流動性を生み出す事ができれば、JREITを超える可能性があるのではないかと思います。

Q:現状維持が最大の壁とのことですが、社内を巻き込むために必要なアクションはなんでしょうか?

趙氏: SBIという会社は良くも悪くも社長の北尾さんの一存で話が決まる。北尾さんを説得するために石川さんのように諦めずに頑張ることがうちの会社では重要(笑)
 
朏氏: ゴールが明確なので、そこに向かって全社で突き進めるという意味では、非常に恵まれた環境かもしれません(笑)

 Q:今後Web3が普及するためには何が必要ですか?

 石川氏: 機関投資家のような大規模資本が参入して来ないと本質的に何も変わらないと思います。Web3の普及の原動力はエンタープライズにあり、滞留しているリソースをいかにデジタライゼーションし流動化していくか、エンタープライズ事例を創り続ける事が普及への鍵だと思います。

まとめ

今回のWeb3 Development MTG Vol2ではエンタープライズ領域でのWeb3の扱われ方、事業展望を中心にディスカッションが行われました。特に金融とブロックチェーンは相性が良く、メガバンクを中心に多くの銀行・証券会社で導入が推進・検討されている。そのようななかで、御三方には主に金融に関する最先端の取り組みと事例についてを、別々の視点からお話を伺うことができたことが印象的でした。趙氏・朏氏はSBIグループ=大企業としてWeb3事業を推進することの壁と事業展望について、また石川氏にはスタートアップ側の視点から、事業推進と生き残る術についてお話いただきました。
 
冒頭で趙氏がおっしゃっていた通り、Web3は定義が曖昧でフワッとした言葉です。人それぞれ見方が異なっているため、複数の視点から情報を得て俯瞰的に見る事が、Web3を企業で推進していくために必要なのではないでしょうか。
 
また、弊社Gincoでは、ブロックチェーンの活用を検討されている企業様向けにブロックチェーン導入支援・コンサルティングサービス等を行なっております。
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