2020年施行予定の資金決済法および金商法の改正による暗号資産管理規制の変化について

藤本賢慈

2020年施行予定の資金決済法および金商法の改正による暗号資産管理規制の変化について

はじめに

2020年春頃を目処に暗号資産(仮想通貨)・セキュリティトークンに関連する規制が大きく改正されようとしています。これは、ブロックチェーン事業者にとって大きな影響を及ぼすものです。
この記事では、まず暗号資産やセキュリティトークン等、ブロックチェーン上のデジタルアセットの管理に関する新たな規制による影響について概要を説明した上で、新たな規制環境下において私たちが提供する管理システムGEWを導入する魅力について説明いたします。

この記事のポイント

  • 2019年に可決された改正資金決済法および改正金商法は、暗号資産等のデジタルアセットを取り扱う事業者全てに管理体制の強化を迫るものです。
  • コールドウォレット原則等の規制水準を満たすために従来の管理システムを運用体制でカバーすることは、純粋な業務コストの増加を意味します。
  • Gincoの提供するソリューションは、新たな規制環境を前提に開発されており、セキュリティ向上や運用コストの削減といった競争優位性の獲得を可能にします。


1|現行規制の背景と改正の経緯

国内規制のこれまで

日本では、2017年にブロックチェーン技術最初のユースケースであるビットコインを代表とする「仮想通貨」の知名度向上とその売買サービスを提供する取引所の発展を背景に、資金決済に関する法律(以下「資金決済法」という。)及び犯罪による収益の移転防止に関する法律の改正が行われ、仮想通貨の売買・交換等が規制の対象となりました。
この規制は、仮想通貨交換業者の登録制を通じて、利用者保護に関する一定の制度的枠組み(最低資本金、顧客に対する情報提供、財産の分別管理、システムの安全管理など)を整備するとともに、登録業者に本人確認義務等のマネロン・テロ資金供与対策に係る義務を課すものでした。[1]
しかしながら、その後、複数の仮想通貨取引所が不正アクセスによる顧客資産の流失事件に見舞われたことや、決済ではなく投機的売買を目的とした利用が大半だったことを踏まえて、資金決済法のさらなる改正案が2019年3月に国会へ提出されました。
このとき、過度な投機性を問題視されていた仮想通貨を用いる新たな資金調達方法「ICO(イニシャル・コイン・オファリング)」を規制対象とするため、金融商品取引法(以下「金商法」という。)、金融商品の販売等に関する法律(以下「金販法」という。)等の改正案も提出されています。
2020年1月には、上記改正案の具体的なガイドライン等が内閣府から発表され話題となりました。現在は同ガイドラインへのパブリックコメントが終了し、今後の施行によって、正式に規制がアップデートされることとなります。

2|暗号資産ビジネスへの規制強化

今回の改正案によって規制の何がどのように変化するのでしょうか?
以下が大まかな改正の概要になります。

資金決済法 改正法案

  • 「仮想通貨」から「暗号資産」への呼称の変更
  • 暗号資産カストディ業務に対する規制の追加
  • 暗号資産交換業の登録拒否事由の追加
  • 取り扱う暗号資産の名称等を変更する場合の事前届出制の採用
  • 広告・勧誘規制の整備
  • 利用者に信用を供与して暗号資産の交換等を行う場合の情報提供措置
  • 利用者財産の保全義務の強化
  • 利用者の暗号資産返還請求権に対する優先弁済権等の付与


金商法 改正法案

  • 電子記録移転権利の創設及びこれに対する規制の適用
  • 暗号資産デリバティブ取引に対する規制の創設
  • 暗号資産又は暗号資産デリバティブの取引に関する不公正な行為に関する規制の新設


今回の法改正について様々な意見が出ているものの、大幅な規制強化となることは意見の一致するところでしょう。
特に顧客資産が脅かされるリスクに重き置いて、暗号資産やセキュリティトークンといったブロックチェーン上のデジタルアセットを管理する事業者に求められる条件が厳格化しています。
この記事では上記一覧のうち、我々のソリューションと深く関係する「暗号資産カストディ業務に対する規制の追加」および「利用者財産の保全義務の強化」、「電子記録移転権利の創設及びこれに対する規制の適用」について詳細に掘り下げていきたいと思います。

3|顧客の預かり暗号資産をいかに守るか

規制の根本にある考え方

今回の法改正によって、管理体制への規制がどのように変化するのでしょうか。
今回の法改正は、ハッキングによって顧客が預けた資産を事業者が逸失する、という一連の事件に端を発するものとされています。
国内で発生した一連の事件は、以下の2点が共通しています。第一に、流出した顧客資産を取り返すことができなかったこと。第二に、流出は主にインターネット接続されたホットウォレット上の資産が狙われたこと。
基本的にブロックチェーン上で送金が行われた場合、それが不正なものであったとしても、元の状態へ巻き戻すことはできません。また、オンライン状態のウォレットで顧客資産を扱う場合、ネットワーク越しのハッキング攻撃を不特定多数の相手から仕掛けられかねず、流出リスクに対処することが難しくなります。加えて、国際的な金融秩序の観点からも、テロリスト等に資金が流出することは避けねばならない、という意見が強く発されました。
こうした背景をもとに、今回の法改正では「顧客の資産を預かる事業者は、それらを万全の態勢で管理し、インシデントを未然に防がなくてはならない」という考えが従来よりもさらに強化されています。

暗号資産カストディ業務に対する規制の追加

今回の法改正で、特筆すべきなのは、暗号資産交換業の定義に「他人のために暗号資産の管理をすること」[2]が追加された点でしょう。(改正後資金決済法2条7項)
規制とはその構造上、「何のために」「誰が」「どういった条件下で」「何を遵守しなくてはならないか」を定めるものです。なかでも「誰が」にあたる規制の対象が大幅に拡大されていることが、今回の法改正の性質を最もよく示しています。
従来の交換業規制は、「売買又は交換」および「その媒介、取次、代理」を規制の対象としていました。簡単に言えば「現金⇔暗号資産」「暗号資産A⇔暗号資産B」のトレーディングに関わる分野のみを規制するものといえます。
しかし今回、「他人のために暗号資産の管理をすること」が定義に加わることで、当該機能を部分的に組み込んだビジネスモデルも規制の対象となります。(改正後資金決済法2条7項4号)
具体的には、決済用の暗号資産を預かるかたちでトークン発行・流通を行うビジネスを行う場合や、レンディングのように顧客から暗号資産を貸し付けられその運用を行うビジネスなどがこれにあたります。

利用者財産の保全義務の強化

交換業ライセンスを取得したとしても、顧客の資産を預かる以上はその保全のために「分別管理義務」を遵守しなくてはなりません。具体的には、主に以下の3つを分別して管理する必要があります。

  1. 事業者資産と顧客資産
  2. 顧客資産のうちコールドウォレットで管理するものと、ホットウォレットで管理するもの
  3. 事業者資産のうちホットウォレットと同種同量の履行保証暗号資産と、その他の自己資産



先述の通り、一連のハッキング事件で被害を受けたのは”ホットウォレット”と呼ばれる、インターネットと接続された状態の資産管理部でした。これを踏まえ、今回の法改正では、顧客からの預かり資産は原則としてコールドウォレットで管理するよう義務付けられることとなります。
ホットウォレットで顧客資産を管理する場合、その資産を一定の水準以下に留めるとともに、同種同量の履行保証暗号資産(こちらもコールドウォレット管理)の確保しなくてはなりません。
1月に発表された事務ガイドラインでは、このホットウォレットの比率が5%以下と示されました。
加えて、同ガイドラインによって、コールドウォレットの自体も「一度もインターネット等に接続されたことのない端末」と明記されています。補足でも「一度でもインターネットに接続したことのある電子機器等は該当しない」とされており、厳密なオフライン性を要求しています。

電子記録移転権利の新設

今回の法改正では、ICOやSTO等のブロックチェーンを用いた有価証券の発行手法に関連するトラブルに対処すべく、金商法による規制が新規に設けられます。
従来、暗号資産(仮想通貨)は主に資金決済法で規制される資産でした。そこから投資性を持つ資産を資金決済法の規制範囲から切り離すことで、有価証券的な規制区分に整理し直しています。

まずブロックチェーン上で発行された有価証券を指す概念として、広義のセキュリティトークン(電子記録移転有価証券表示権利等)が定義されます(改正業府令1条4項17号、6条の3)。
この広義のセキュリティトークンは、以下の3つに区分されて取り扱われることとなります。

  1. 証券・社債ST(第一種金商業)
  2. 電子記録移転権利(第一種金商業)
  3. 適用除外ST(第二種金商業)

これにより、公募型のトークン発行において、当該トークンが投資性を有するような場合は、一般的な株式等と同様の開示規制に対応する必要が生じます。
加えて、これらの電子記録移転権利でも、顧客から資産を預かる場合は暗号資産の管理と同等の安全管理措置を図ることがガイドライン上で明文化されており、実質的にコールドウォレット保管が前提となるでしょう。

4|規制がもたらす変化

今回の規制は、現実の暗号資産ビジネスにどのような変化を迫るものでしょうか。

第一に、サービス設計と資産の取り扱い方法がより密接に結びつくこととなります。
現状、パブリックチェーン上のアセットを用いてサービスを構築する場合には、顧客にウォレットを持たせ自身で秘密鍵を管理させるか、事業者やサービスベンダーが顧客に代わって秘密鍵を管理するか2つの選択肢が主とされています。
この際、より一般的なユーザー体験を実現するためには、顧客の資産を預かった方がサービスが立ち上げやすいため、暗号資産を用いたサービスの一部には資産預かりの機能が組み込まれたものがありました。
しかしながら、今後は、そもそも事業者が暗号資産を預かることなく実現可能なビジネスモデルを構築するか、自社で資産を預かるための規制ハードルを乗り越えるかを選ばなくてはなりません。
前者の場合は、顧客が自身で秘密鍵を管理できるインターフェイスをサービスに組み込んだり、外部のウォレット利用を推奨む必要があります。また、後者の場合はコールドウォレット等の資産管理システムを導入しなくてはなりません。
すなわち、サービスの構想段階で「鍵の保管方法」に関する落とし所を見つけておかなくてはならなくなった、ということです。

第二に、既存の資産管理体制を見直さなくてはいけない場合が生じています。
特に「原則コールドウォレット、例外は5%まで」という点は既存の業務に大きな影響を与えるポイントです。
これまで暗号資産取引所が対応してきた自主規制団体の規則ではホットウォレットでの管理を20%まで、と定められてきました。これは顧客からの入出金申請に迅速に答え、取引所業務を円滑に運営するためには、20%をホットウォレットに置いておかざるをえない、という共通認識があったからでしょう。
このホットウォレット許容量が5%まで引き下げられることにより、取引所の業務遂行にかかるオペレーションコストは増大します。
加えて、コールドウォレットの定義が明確にされたことにより、これまでコールドウォレットとされてきたものを見直さなくてはならない場合があります。
例えば、ハードウェアデバイスをウォレットとして用いるために、鍵生成のセットアップ時や署名部のアップデート時にファームウェアをダウンロードする設計となっている場合、これらが「インターネット”等”への接続」にあたるとみなされる可能性があります。
これらの事情から、法改正により既存の管理システム全体を見直す必要が生じているとされています。

5|ウォレットが生み出す競争優位性

法改正という規制レイヤーの環境変化は、全ての取引所に影響を与えるものです。前節で紹介したとおり、特にコールドウォレット原則は、取引所の業務遂行コストをおしなべて増大させるものでしょう。
これは逆説的に、ウォレットこそが競争優位性を生み出す規制環境なのではないか、と考えています。
ウォレットから生まれる競争優位性とはなんでしょうか?私たちは以下の4つを想定して、プロダクトを開発してきました。

  1. セキュリティ向上を実現する
  2. オペレーションコスト削減を実現する
  3. 積極的なアセットクラスの追加を可能にする
  4. ユーザー体験の改善等サービスの付加価値向上を実現する


①セキュリティ向上

そもそも、今回の法改正は一連のハッキング事件を、二度と繰り返させぬために実施されたものです。
ハッキングは純粋な資産流出による損失となるだけでなく、ブランド力の低下や、ユーザーの離脱等を引き起こす、取引所ビジネスの大敵です。これを防ぎ切るだけの高いセキュリティを実現することは、取引所の生存戦略として不可欠な武器となります。
また改正法は、取引所ビジネスにおける資産管理体制の強化を強く要求しています。これに応え、万全のセキュリティ体制を構築することは、利用者に安心をもたらすことに繋がります。

②オペレーションコスト削減

今回の規制が取引所の資産管理オペレーションコストを増大させるのは、究極的にはコールドウォレットの使いにくさに帰結します。
完全にオフラインな環境下で、パブリックなネットワークとの送受金を行うためのシステムを構築するのは困難です。そのため、ほとんどのコールドウォレットでは、利便性とセキュリティをトレードオフにしています。
しかし、本来ウォレットのセキュリティと利便性はトレードオフではありません。
オフラインのままで業務を効率化する高品質なウォレットを導入することにより、取引所ビジネスの運営コストを圧縮することが可能です。

③積極的なアセットクラスの追加

ユーザーへ展開する暗号資産の種類を増やすためにも、ウォレットは不可欠な存在です。
どんな通貨であっても、95%をコールドウォレットで保管しなくてはならない以上、ウォレットは対応通貨を増やす際のボトルネックの1つになります。
新規通貨のホワイトリスト追加を申請するためにも、迅速かつ柔軟に管理体制を整えられるコールドウォレットが必要となります。

6|Ginco Enterprise Walletで法改正を「追い風」に

私たちはGinco Enterprise Wallet(GEW)は、新たな規制環境を見越した上で「競争優位性を生むコールドウォレット」として開発してきました。
先述の「セキュリティ向上」「オペレーションコスト削減」「積極的なアセットクラスの追加」という3つの競争優位性を高められるソリューションです。参考記事:暗号資産のセキュリティと規制準拠を実現するための理想のウォレットとは


①最高水準のセキュリティ

セキュリティ面においては、秘密鍵のオフライン管理と、マルチシグ、業務フローの細分化によって、最高水準の安全性を実現しています。
また、従来の管理システムと異なり、顧客と事業者の間で入出金を行うために用いるホットウォレットが存在せず、全ての顧客アドレスをコールドウォレットから直接導出し、ユーザー一人ひとりに割り当てることが可能です。
実際の導入企業様の場合、数十万もの顧客アドレスをGEW上で取り扱われており、100%のコールド管理を実現しています。

②入出金はもちろんバックオフィス業務まで効率化

GEWは取引所の資産管理オペレーションを劇的に効率化します。
従来のコールドウォレットでは、トランザクション情報をオフラインの秘密鍵管理デバイスへ共有する際に、紙やUSBといった何らかの媒介物を必要としていました。GEWは独自の特許技術によって、この作業をシームレスに完結させています。
また、複数のウォレットからAPIで大量のトランザクションを作成し、それらを一度にまとめて署名することで、署名作業自体を減らすことが可能です。
加えて、署名プロセス以外にも、管理の管理状況や監査ログのエクスポートといった、バックオフィス業務全般をサポートしています。

③柔軟でスピーディな通貨対応

通貨対応の柔軟性もGEWの強みの1つです。GEWはマルチブロックチェーンに対応しており、導入時点からBTC、BCH、ETH、ETC、XRPを取り扱うことが可能です。
またご要望に応じて通貨追加にもスピーディに応えられます。ERC20通貨ならばご要望から最短二週間での追加が可能です。また、β環境ではStellerやEOS、neoといった通貨にも対応しています。
もちろん、通貨追加を行う場合も、デバイスの追加や業務フローの変更などはありません。高品質なUI/UX等はそのままに、新規通貨をオペレーションに組み込むことが可能です。

まとめ

今回の法改正によって、ブロックチェーン上の暗号資産・STを顧客の代わりに管理する事業者には、非常に高いセキュリティ水準が求められることを説明しました。

このセキュリティ水準を従来型のウォレットシステムのまま、運用体制の変更のみによってカバーすることは、純粋なコストの増大を意味します。
しかし、100%コールド管理を前提に開発されたウォレットを導入することで、この法改正を機に、新たな競争優位性を獲得することが可能ではないでしょうか。

新たな規制環境下で取引所ビジネスを持続的に発展させていくために、私たちGincoのソリューションをお試しください。